耐雪桜花麗

そこらへんにいるオカンの日常。

村上宗隆への感謝状。

新型コロナウィルスが流行する少し前のこと、野球とはここ何十年も無縁の人間だった私は、なぜか明治神宮球場にいた。

 

夫が会社で、ヤクルト戦のチケットを4人分もらってきたからである。息子たちも野球をやっていないし、ここ何年も野球自体を見ていなかったから、子供たちが最後まで野球を見られるのかという心配ばかりして、その日を迎えていた。

 

外野席、その当時は入場制限なんてなかったから満員、マスクもせず多くのファンでごった返していた。そして忘れもしない、試合の終盤、スワローズの若きバッター、村上宗隆の特大ホームランを目の当たりにしたのだ。

 

とにかく美しかった。外野席ど真ん中に飛び込んだホームランを見て、歓声に沸く客席の中で、ひとり感動で動けなくなってしまったのだ。

 

そうだった。私は野球が好きな時期が確かにあったんだ。突然その自分自身の記憶を呼び覚まされたのだった。

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私は40代半ばになるが、幼少期まで記憶を遡らせる。

私は生まれる前、周囲からこのお腹の子は男の子に間違いない(お腹が突き出ているからとかいろんな迷信のせいで)と信じられていた。しかし実際に出てきたのは、女の子だった。

将棋好きの父は、生まれるまで男児だと信じて疑っていなかったから、将棋から一文字取った将行という名前しか考えていなかったほどだという。その後私に兄弟は生まれず、一人っ子として育った。

父は子供を棋士にするという夢を諦められず、私が女であるにもかかわらず、将棋を幼いころから仕込んだ。だが私自身は向上心がなかったし、やはり将棋は男の子のもの、というイメージもあったからか身につかなかった。

家ではいつも野球中継も流れていた。将棋が指せて、野球のルールもわかるなんて女の子は昭和の当時は少なかったし、友達と話が合うことも少なかった。それでも、テレビでは毎晩野球中継が流れていたし、両親ともに筋金入りの巨人ファン、テレビ中継内に試合が終わらなければ、ラジオに移行するほどの家庭だったから、私も自然と野球観戦に興味をもつようになっていった。

 

毎晩みていると、なんとなく次にリリーフが出てくるタイミングとか、だれが出てくるのかとか、予想が付くようになってくる。私の世代はというと、松井秀喜や佐々木大魔神、スワローズで言えば高津臣吾や古田が全盛期、ID野球なんて言葉も流行のときだったと思う。巨人で好きだったのは川合、篠塚、條辺など渋い選手で、デーブ大久保なんかも大好きで下敷きまで持っていた。田舎暮らしだったから現地観戦した記憶は1度しかなく、東京ドームだったかどうか、もう記憶が残っていない。

 

しかし世の中はJリーグ全盛期、周囲はサッカーファンばかりで哀しい思いをした。テレビでも野球中継をほどんどしなくなり、私も両親も、いつの間にか野球を卒業させられていた。

 

こんな濃密な時間があったはずなのに、私は40代のこの瞬間まで、あのころの気持ちを忘れていた。私の好きだった選手や知っている選手はほとんどいなくなり、もう熱狂するなんてことはないだろうな、という思い込みを、みごとに村上のホームランがぶち破ってくれたのだ。若くてもこんな素晴らしいバッティングをする選手がこの時代もいるのか!と本当にあの頃の松井秀喜を彼に重ねるほどの衝撃を覚えたのだ。しかもその選手が20歳そこそこであるということにもびっくりだった。

 

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そこから自分にはこんな行動力があったのか!と思うくらい野球にのめりこみ、幸いなことに夫も子供たちもこの現地の1戦で見事にスワローズファンになり、DAZNも加入し、家族で神宮現地参戦するようになり今に至る。

 

あの時きっかけを作ってくれた村上選手は、スワローズの不動の若き4番、未だ私に野球を愛する理由を与え続けてくれている。

(ここから告白)ありがとう、村上宗隆。どんな時も真摯で、堂々としていて、それでいて、若い弟や息子のような愛らしさも兼ね備えた男、大好きです。私を野球へと引き戻してくれたあのしびれるようなホームラン、いつも楽しみにしています。今シーズンも2戦連続グランドスラム、そして交流戦サヨナラホームラン。漫画みたいな活躍ができる主砲はなかなかいないです。ほかのチームにいかず、ずっとスワローズにいてください。(告白終わり)

 

そしてチームですが、私が幼少期、現役のとき恐れていた、抑えの高津臣吾選手が監督、自分の投手経験を生かしてなのか、素晴らしいローテーションで投手陣が誰が出てきても安泰という安心感のある采配で、いつも感銘させられている。絶対投手陣は誰かが無理させられてないか~?というような采配があるものだが、本当に盤石。

打線もいまいちかと思いきや、若者とベテランがうまく補い合って、雰囲気が良い。誰ががダメなときは誰かが補う。本当に今一番良いチームである。

 

時々は文句も言いたくなる試合もあるけれど、それも愛ある故。ここしばらく何かにはまれるということがなかったけど、野球のおかげでまたハリがある生活が送れそうである。今の息子たちからは、あの頃の私の母のような姿に見えているのだろうか。それはそれでうれしくもあったりする。

 

 


みんな、野球はよいぞ。コロナが終わったら、またみんなで神宮で応援歌歌おうな。